
ステント留置後の通院と減薬を判断する基準
心臓にステントを入れたあとに飲む、血をかたまりにくくする薬(抗血小板薬)をいつ減らすかは、治療したときの具合や出血のしやすさ、血液の検査の結果をもとに主治医が決めます。自分の判断で止めないようにしましょう。 この記事では、通院で調べる検査、2種類の薬を続けるわけ、あざや出血が出たときの伝え方、手術を受けた病院と近くのクリニックが連携して通い続ける流れをまとめます。
この記事の要点まとめ
- 術後は血液検査や心電図、胸の症状・出血・服薬状況を主治医に伝えます。
- 抗血小板薬の2剤併用や減薬の時期は、病状や出血リスクを踏まえて主治医が判断します。
- 出血や胸痛は程度に応じて相談し、紹介状やお薬手帳を使って地域のクリニックと連携します。
- 心臓ステント術後の通院で確認する検査・症状・薬の飲み方
- 抗血小板薬を続ける理由と、減薬の時期を主治医が決める判断材料
- あざや出血の伝え方と、治療した病院と地域のクリニックで通院を続ける手順
- よくある質問
- 参考文献
- 監修
心臓ステント術後の通院で確認する検査・症状・薬の飲み方

経皮的冠動脈形成術(PCI、カテーテルで冠動脈を広げる治療)のあとに行う通院は、再狭窄や血栓の予防と、元の生活に戻るための全身管理という2つの目的があります。診察で聞き取った症状と検査結果の両方を照らし合わせることが、その後の薬の調整や通院間隔を決める材料になります。
退院後の初回受診と、経過が落ち着いてからの通院間隔の考え方
退院後はまず、カテーテル治療を受けた病院の指示どおりに初回受診を行い、傷口や心臓の状態を確認します。その後は体調や薬の調整状況を見ながら、少しずつ受診の間隔を見直していくのが一般的な流れです。
平日の通院が重なると仕事や家庭の予定に負担を感じることもありますが、具体的な間隔は病変の数や心機能、病院の方針によって異なります。いつ頃から通院のペースを変えられるかは、自己判断せず主治医に確認しましょう。
血液検査・心電図・腎機能などの結果が薬の調整にどう関わるか
通院時の検査は、血管が再び狭くなる兆候だけでなく、薬による副作用や出血のしやすさを調べるために行います。とくに貧血の有無や血小板の数、腎機能の数値は出血リスクを評価する判断材料になり、抗血小板薬の種類や継続期間を見直す際に関わります 1。
一般的に、循環器の外来では血液を調べる機械を使って、赤血球や血小板の数、腎臓や肝臓のはたらき、コレステロール、血糖などを調べます。あわせて心電図で脈の乱れや心臓の筋肉への血のめぐりをみたり、心臓の超音波(心エコー)や血圧脈波の検査で、心臓の動きや血管の状態を調べたりします。
受診時に伝えたい胸の症状・あざ・飲み忘れの記録
診察室では、検査数値に表れにくい日々の変化を医師へ伝えることが大切です。次の項目をメモやスマートフォンに書き留め、お薬手帳や家庭血圧の記録と一緒に提示すると説明がしやすくなります。
- 胸や息の症状:胸の痛みや締めつけ、息切れ、以前より歩ける距離が短くなっていないか
- 出血のサイン:腕や足のあざ、歯磨き時の出血、鼻血が出た日と続いた時間
- 服薬の状況:飲み忘れた日や時間帯、残っている薬の数
ご家族とカレンダーや記録ノートを共有しておくと、ご自身の記憶違いも防げます。疑問や不安があるときは遠慮せず、診察の場で何度でも医師へお尋ねください。
ポイント
通院では、血液の検査や心電図の結果と、患者さまが書きとめた胸の具合・出血・薬の飲み方の両方をもとに、薬の続け方を決めます。
抗血小板薬を続ける理由と、減薬の時期を主治医が決める判断材料
冠動脈ステントを留置したあとは、ステント内に血の塊(血栓)がつくのを防ぐため、作用の異なる2種類の抗血小板薬を併用する二重抗血小板療法(DAPT)を行うのが基本です 23。薬を1剤へ減らす時期は一律ではなく、治療したときの病状や出血リスクを踏まえて主治医が判断します 231。
2種類の抗血小板薬がステント血栓症を防ぐしくみと、抗凝固薬との違い
血管の壁に金属の網である薬剤溶出性ステント(DES)を入れると、血管の内側が新しい膜で覆われるまでの間、血小板が集まって固まりやすくなります。これを抑えるため、アスピリンとP2Y12阻害薬(クロピドグレルやプラスグレルなど)の2種類を組み合わせて血小板の働きを抑えます 4。
同じく「血をサラサラにする薬」と呼ばれるものに、心房細動などの不整脈で使う抗凝固薬(ワルファリンなど)がありますが、こちらは血液が固まる別の経路に働く薬です。ご自身が飲んでいる薬の名前と役割をお薬手帳で確認しておくと、他の医療機関を受診する際にも伝えやすくなります。
「12か月程度」の目安が人によって変わる理由:心筋梗塞・出血リスク・併存症
海外では、心筋梗塞などで急に心臓の血のめぐりが悪くなった人がステントを入れたあと、2種類の薬を12か月ほど続けることが目安とされてきました 23。国内では、出血のしやすさに合わせて、これより短めの期間にすることもあります。
海外では、2剤を2週間〜3か月ほど飲んだあとにチカグレロル1剤へ切り替える方法も、2剤を12か月続ける方法と並んで検討されています 2。ただし国内では、チカグレロルはほかの同じ種類の薬が使えないときなどに使う場面が限られています。出血リスクが高い患者さまでは、2剤の期間を1〜3か月の短期間にする方法も検討されています 1。
| 判断に関わる要素 | 主治医が確認する主な内容 |
|---|---|
| 治療時の病状 | 心筋梗塞などの急性冠症候群か、安定した狭心症か、多枝冠動脈疾患か |
| 出血のリスク | 年齢、貧血、腎機能や肝機能の低下、過去の出血歴 |
| 併存症と併用薬 | 他の病気の有無、抗凝固薬や痛み止めなどの併用状況 |
このように、血栓ができるリスクと出血するリスクのバランスは一人ひとり異なります 31。いつ薬を減らせるかは、カテーテル治療の内容と術後の経過を知る主治医が総合的に判断します。
「あざが出たら自分で減らしてよい」は誤解:自己中断が招く危険
腕にあざができたり歯ぐきから血が出たりすると、「薬が効きすぎているから1日おきにしよう」と考える方がいますが、これは注意が必要な誤解です。自分の判断で抗血小板薬を減らしたり止めたりすると、ステント血栓症や心筋梗塞を起こし、命にかかわることがあります 5。
急性期病院の現場では、心筋梗塞や心不全の発症・再発によって、それまでの仕事や日常生活に制限が生じてしまう患者さまが少なくありません。元の生活を守るためにも、出血が気になるときは薬を止めずに医師へ相談し、必要に応じた調整を受けることが大切です。
飲み忘れ・薬が切れそうなとき・抜歯や内視鏡検査の前にすること
薬を飲み忘れたことに気づいた際、2回分を一度にまとめて飲むのは避けてください。気づいた時刻によって対応が異なるため、あらかじめ処方元の医師や薬剤師に「飲み忘れたときのルール」を確認しておくと落ち着いて対処できます。手元の薬が切れる前に受診予定を立てることも欠かせません。
また、歯を抜くときや日帰りの手術、大腸カメラなどの検査を受ける前には、その処置をする医師と心臓の主治医の両方に、この薬を飲んでいることを伝えます。処置で血が出やすくなる心配と、血のかたまりができる心配を医師どうしで確かめ、薬をいったん止めるかどうかを決めます。
あざや出血の伝え方と、治療した病院と地域のクリニックで通院を続ける手順
術後の生活では、症状や出血の程度によって「次の診察で伝える」「早めに連絡する」「救急要請する」を使い分けることが重要です。あわせて、手術を受けた病院と地域の循環器内科が連携して通院を続ける手順を知っておくと、仕事や家庭の予定と両立しやすくなります。
次の診察で伝える出血と、すぐ連絡したい出血の目安
抗血小板薬を服用中は、ぶつけた覚えのない小さな青あざや、歯磨き・ひげ剃り時の少量の出血がみられることがあります。すぐに血が止まり広がる様子がなければ、部位や大きさを写真やメモに残して次回の診察時に主治医へ見せてください。こうした経過も出血リスクの評価や薬の期間調整に関わります。
一方で、15分以上圧迫しても止まらない鼻血、赤い尿(血尿)、海苔のように黒い便(黒色便)、血を吐く、急激にあざが増えるといった場合は、消化管などの出血が疑われます。次の予約日を待たず、処方元の医療機関へ早めに連絡して受診の指示を仰ぎましょう。
強い胸痛や冷や汗があるときは診察を待たずに救急要請を
胸の症状についても、緊急度の見極めが必要です。安静にしていても治まらない強い胸の痛みや締めつけ、冷や汗、急な息苦しさ、意識が遠のく感覚があるときは、ステント血栓症や心筋梗塞の再発が疑われます。
このような症状が出た場合は、近くのクリニックの診察時間を待ったり自分で運転したりせず、ただちに救急車を呼んでください。万が一のときに迷わず行動できるよう、救急要請の目安をご家族ともあらかじめ共有しておきましょう。
紹介状・治療経過の資料・お薬手帳を用意して地域のクリニックへ移る流れ
退院後の経過が落ち着いてきた段階で、「平日に遠方の基幹病院へ通い続けるのが難しい」と感じたときは、まず治療を受けた病院の主治医へ地域のクリニックで継続診療を受けられるか相談します。了承が得られたら、以下の資料を用意して地域の循環器内科を受診します。
- 紹介状(診療情報提供書):カテーテル治療で何をしたか、入れたステントの種類、2種類の薬をいつまで飲むかの目安などが書かれた書類
- 検査結果の控え:退院のときや最近の血液検査・心電図などの結果
- お薬手帳と家庭血圧の記録:いま飲んでいるすべての薬と、毎日の血圧の記録
普段の薬の処方や血液検査、高血圧・脂質異常症などの管理は地域のクリニックで行い、節目の精密検査は治療した病院で受けるという形で、病院とのつながりを保ちながら通院を続ける方法があります。
術後の通院にかかる費用の目安
患者さまの仕事のスケジュールやご家族の用事など、ライフスタイルに合わせた通院と服薬管理を組み立てるには、受診前に紹介状やお薬手帳などの持参物を確認しておくとスムーズです。
なお、術後の定期通院は公的医療保険が適用され、3割負担の場合で診察・血液検査・心電図検査などに数千円程度、加えて処方薬代がかかるのが一般的な目安です。選ぶ検査項目や薬の種類によって金額は変わり、自由診療の検査などを組み合わせる場合は公的医療保険が適用されません。
記載した金額は一般的な相場であり、当院の費用ではありません。実際の費用は医療機関や処方内容により異なるため、受診先の医院にご確認ください。
ポイント
止まらない出血や強い胸痛はすぐに医療機関や救急へ連絡し、普段の通院は紹介状とお薬手帳を活用して治療病院と地域のクリニックで連携して続けられます。
よくある質問
Q. ステント手術後、薬はいつまで飲み続けますか?
A. 2種類の抗血小板薬を一緒に飲む期間は、病状や出血リスクによって変わります6 。国内では、出血のしやすさに合わせて短めの期間が選ばれることもあります。1剤にした後も長期的な服用が必要になることが多いため、減薬や変更の時期は必ず主治医の判断に従ってください。
Q. ステント留置後に使用する薬剤にはどのようなものがありますか?
A. ステント血栓症を防ぐため、アスピリンとP2Y12阻害薬(クロピドグレルやプラスグレルなど)という2種類の抗血小板薬を併用するのが基本です 4。これに加えて、動脈硬化の進行を抑えるためにコレステロールを下げる薬、血圧を整える薬、心臓の負担を和らげる薬、胃粘膜を保護する薬などが病態に合わせて処方されます。
Q. ステント治療後、日常生活や食事・運動で注意すべきことは何ですか?
A. 出された薬を言われたとおりに飲み続けることに加えて、生活の見直しを続けることが、ふたたび起こるのを防ぐことにつながります。たとえば、塩分をひかえた食事、たばこをやめること、よく眠ること、ウォーキングなどの無理のない運動です。どのくらいの運動から始めるかは心臓の回復の具合で変わるため、仕事にもどる時期や運動の目安は担当医に確かめてから進めましょう。
Q. 心臓のカテーテル手術をした後、退院後の通院はどうすればいいですか?
A. 退院してすぐは、手術を受けた病院から言われた日に受診します。経過が落ち着いてからは、紹介状(診療情報提供書)とお薬手帳を持って、近くの循環器内科クリニックと連携しながら通う方法があります。節目の検査は手術をした病院で、ふだんの血圧の管理や薬の処方は近くのクリニックで受けるといった分け方について、主治医へご相談ください。
参考文献
1. Costa F, Montalto C, Branca M et al. Dual antiplatelet therapy duration after percutaneous coronary intervention in high bleeding risk: a meta-analysis of randomized trials. European heart journal. 2023. PMID: 36477292 / DOI: 10.1093/eurheartj/ehac706
2. Valgimigli M, Hong SJ, Gragnano F et al. De-escalation to ticagrelor monotherapy versus 12 months of dual antiplatelet therapy in patients with and without acute coronary syndromes: a systematic review and individual patient-level meta-analysis of randomised trials. Lancet (London, England). 2024. PMID: 39226909 / DOI: 10.1016/S0140-6736(24)01616-7
3. Carvalho PEP, Gewehr DM, Nascimento BR et al. Short-Term Dual Antiplatelet Therapy After Drug-Eluting Stenting in Patients With Acute Coronary Syndromes: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. JAMA cardiology. 2024. PMID: 39382876 / DOI: 10.1001/jamacardio.2024.3216
4. 急性心筋梗塞後に使用する抗血小板薬の段階的減薬:Less is Moreのコンセプトをネットワークメタ解析で立証 | プレスリリース | 慶應義塾. https://www.keio.ac.jp/ja/press-release/20210726-1/
5. よくある質問|国立循環器病研究センター冠疾患科. https://www.ncvc.go.jp/coronary2/faq/index.html
6. 最新のガイドラインに基づく至適薬物治療の実践のために(1). https://www.ncvc.go.jp/coronary2/column/20210714_02.html
名古屋大学医学部附属病院循環器内科
小牧市民病院にて初期研修
大同病院循環器内科
小牧市民病院循環器科
トヨタ記念病院循環器内科
中東遠総合医療センター循環器内科
さなげクリニック 院長
医学博士
日本内科学会認定内科医/総合内科専門医
日本循環器学会循環器専門医
日本救急医学会救急科専門医
日本心血管インターベンション学会認定医
日本心エコー図学会心エコー図専門医
SHD心エコー図認証医
日本超音波医学会超音波専門医
産業医
心臓リハビリテーション指導士
緩和ケア研修会修了
心不全緩和ケアトレーニングコース修了
植込み型除細動器(ICD)/ペーシングによる心不全治療(CRT)研修証
所属学会
日本内科学会
日本循環器学会
日本救急医学会
日本心血管インターベンション学会
日本心臓リハビリテーション学会
日本心エコー図学会
日本超音波医学会
日本不整脈学会
日本集中治療医学会
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